「どうしよう。こんな酷い鉢代えじゃこの子死んじゃいます」
「ひ、酷い鉢代えですって!」
 ヒステリックに叫んだ母親に対しみかどは怯まない。
「そうですね。今、貴方がしてる事は段ボールに犬を詰めて餌もやらずに捨てただけですね。優しさとして段ボールに『拾って下さい。』と書いただけで」

 店長は男の子が投げ捨てたスコップを拾うとサボテンの回りの土を掘る。「僕の喫茶店は、テラスにハーブや苺を育てています。でもね、水や太陽――肥料だけが栄養じゃない。それだけじゃ美味しく沢山実ってくれないですよ」

「店長……」
「いらないと存在を否定されたら……このサボテンはどう生きていくのでしょうか」
 そして店長がキャップを取り、キャップの中に土を入れるとソッとサボテンを移した。
「この子は今度からうちの喫茶店の看板サボテンにします」

 にっこりと天使と例えるのが相応しいぐらい丁寧に店長は笑った。みかどと女性は暫くその笑顔に見とれていたが、足から頭の先まで店長を見ていた女性がみるみる青冷めていく。

「き」
店長が首を傾げると、キャップで隠していたクマのつけ耳が揺れた。
「きゃあああ! クマのつけ耳!変態っ」
「こらーへんたい!ママをいじめるなー!」