「……わかりました。貴方がそう言うのであれば少しお待ち下さい」
店長は神妙な顔つきでカウンターの奥へ入って行く。店長は手に乗るサイズの小さな紙袋を持ってくるとみかどに差し出した。
「これを定宗さんに会ったら渡して下さい」
「あの、これは」
「無香料に着色料、保存料を使っていないクッキーです」
「クッキー……」
ガサゴソと中を覗けば、焼きたてのクッキーが入っている。魚型で爪楊枝で目も書いてある可愛いクッキーだ。
「初めて会う方は必ずこれを渡して挨拶しなければ。……定宗さんは気難しいところがあるので。さ、行きましょう。定宗さんの縄張りは広いので時間がかかります」
「はい」
店長は耳を外さず黒いキャップを被るとみかどに目で合図し走り出した。が、渋茶色のバーデンダー服にはキャップは似合わずどちらにしても浮いているのが分かった。
「定宗さんとは一体どんな方でー……」
カフェから走りだして数分、公園に到着した。小さな公園で花壇と砂場、滑り台のみだ。みかどが尋ねたが、店長は『しっ』とみかどに合図すると砂場の奥の花壇へ歩き出す。
「居ます」
滑り台の向こう、花壇には女性と小さな男の子が座っているのが見える。花壇を覗きこむように何かしている。
「え、あの、定宗さんって女性ですか」



