「202号室は、鳴海さん。だけど――土日は家に居ないから気がねしないでいいの。でもね」
 ぽとりと落ちていく。胸に、転がるソレは、『違和感』。千景の、その言葉に違和感を覚えた。それが、初めての『謎』だった。

「絶対に鳴海さんの失った記憶を思い出させないようにして。空白の時間を埋めないで」
空白の時間。記憶喪失。奇妙な被りモノ。それはまだ彼の小さな『謎』でしかない。

「鳴海さんが貴方のお兄さんである確率は低いけれど、そうなると空白の時間を刺激しちゃう場合は――此処に居られなくなるから、先に謝っておくね」
 深々と謝る千景を、慌ててみかどは肩を引きあげる。そしてだらしなくへらりと笑った。

「いいえいいえ。本当に謝らないでください。私は今、千景さんにも店長さんにも感謝しかしていません。自分の意見をきいてくれようとする人に出会えただけで私は前を向いて頑張れそうです」
 人見知りで、勉強が出来ない出来そこないと言われて過ごしたみかどは、他の同い年の人たちと一線を引いていた。劣等感がそうさせてきていた。だから親身になって話せる友人も居なく、自分を上手く出したことがない。

「私も、ドジでノロマで、馬鹿で可愛くないし、良い所なんてないですが、それでも――変われるように頑張るのでよろしくお願いします」

「みかどちゃんっ」