「俺らに任せて良いなら好き勝手するけどねー」
「ねー」
「んん まだ鳴海殿は、儂らに隠していたことがあるのかいな」
「十時かあ。飛ばせば間に合うかなあ」
 葉瀬川さんが腕時計を見て、数回頷くと、皆も一斉に頷いた。
「迎え! 敵は本能寺にあり!」
 ドラガンはただそう言いたかっただけだろう。だが、その叫び声に皆が、岳理の車に飛び乗った。
「ちょっ定員オーバーだろ」
「みかどと岳理さんは向こうへどうぞ」
 千景が指を指した方向は、岳理のバイクだった。この前、店長が乗ってみたいと言っていたのを岳理が持って来たまま放置していた。
「っち。ヘルメット」
 岳理はヘルメットをみかどへ投げつけると車を追い抜かしながら空港へ向かった。順調に走り出したかのように思えたが朝の通勤時間に重なってしまい、丁度渋滞に捕まった。みかどは岳理のバイクの後ろに乗り、動かない道路を眺めて気持ちばかりが焦っていく。
「っち。全然動かねぇ……」
 何度電話しても店長の電話は繋がらない。
「あいつ、絶対に捕まえて監禁してやる」
「だっ駄目ですよ! 冷静になって下さい。お兄さんはTATUMIARISUGAWAさんに本当の父親か尋ねに行くんですよ。そんな行動に走らせたのは私のせーー」
 そう言いかけると、岳理が振り返って睨みつた。
「それ以上つまらない事を言うなら、キスすっからな」
「!」
「――その口、黙らせてやる」
「き、却下です! 却下却下却下却下!」
 慌てていると、岳理の携帯が震えだした。
 相手は『葉瀬川唯一』
 そして、少し遅れてみかどにも電話が。相手は『楠木皇汰』
「――何だよ」
「おはよう、皇汰」
 二人は同時に受話器を取る。
『鳴海んが現れないんだけどー』
『今、すっげー豪華客船からTATUMIARISUGAWAって奴が降りてきた! 日本に久しぶりの帰国だってよ』
「はぁ」
 岳理は慌てているが、みかども携帯を握りつぶしそうなほど驚いた。
「来日!」
『鳴海んが指定したゲート前に来たけど、『香港経由、南アフリカ・ヨハネスブルグ行』便なんだよね』
「どこだよ!」
 葉瀬川と岳理が言い争っている中、皇汰の言葉に耳を疑う。
「……岳理さん」
「あ」
「TATUMIARISUGAWAさんが来日してるって。皇汰の近くの港に豪華客船が止まってて其処にいるって」
「……っち」
『一応、空港内で呼び出しかけてみるけどー』
「鳴海、そこにはいねー」
『えー』
 岳理はバイクを何度かふかすと、溜め息を吐く。
「豪華客船が止まってる港に来い!」