みかどの父親が、女性関係が派手なのはもう隠しようが無い事実だった。それは認めざるを得ない。だが、もしそれが本当ならば、みかどの母親が鳴海を引き取りたいと申し出た理由も納得できる。本当に心から心配してだったのか、自分の愛した夫の子供かもしれないからか――。「TATUMIッて奴が、鳴海を自分の息子だって宣言してくれたら、きっとその方が幸せだろうが。麗子さんの話だと、向こうは自分に息子が居ることを知らなかったらしい。追いかけて何度か今話しあいをしているらしいが」
「……麗子さんが世界中追いかけ回してる理由って、お兄さんのためなの」
「まあ、自分の夫の弟だし放っておけないのもあるだろうな」
「……」
 みかどは、もうこれ以上の幸せを望んではいなかった。今のこの状況は、本当に恵まれ、あの家に居たころの自分が想像できないほどだった。だからこそ、店長と血が繋がっていると言われたら複雑な気持ちが隠せない。みかどと血が繋がっていて良いことなんてない。そのARISUGAWAという人の方が、何百倍も幸せな結末のはずだ。
「このことは、お兄さんは」
「知ってるかも。俺は麗子さんが俺の寺に着た時に聞いた。ちょうど一週間前だ」
「嘘! 麗子さんが帰って来たの、誰も知らなかったよ」
「そんな事もあるんじゃねーの」
 店長がその事を知ればもう少し何か表情に出るはずだが、この一週間特に変わった様子は無かった。岳理と映画デートに行こうとしたみかどに、自分も兄として付いて行くと本当に一緒に見たことぐらいだ。それも、他のリヒトやトールの干渉に比べたら普通すぎる。
「……岳理さん」
「なんだ」
「店長、ちょっと遅すぎじゃないですかね いつもなら定宗さんの健康クッキー作ってる時間ですよね」
 みかどの言葉に、岳理は猫の餌を放り投げて三階の202号室へ向かう。
「岳理さん!」
 みかども急いで走り出すと、千景の部屋にマスターキーを借りに行った。
「どうしたのー」
 出勤準備のリヒトと、仕事帰りのトールが部屋から出てきたと思えば、漫画を読んで徹夜の葉瀬川も顔を出す。
「みかど、居ないぞ!」
「なんじゃ 探し人か」
 ドラガンも部屋から顔を出すと、202号室の前へ飛び出した。
「お、お兄さんが、カフェの開店時間なのに見当たらなくて」
 みかどが真っ青でそう言うと、定宗が空から突然降ってきた。いや、皆の輪の中に。飛び込んで来たのだ。定宗の首輪に、紙が結んでいるのに気付き、みかどがすかさず紙を外し中を覗く。
『みかどちゃんの本当の兄か確かめて来ます。朝、十時の飛行機でニューヨークへ向かいます。カフェを皆さんで頼みます』
「えええええ!」
「ちょっと! 監禁されてたくせに何このアクティブさ!」