岳理とみかどが、両思いになりめでたしめでたし――では終わらなかった。
 みかどの兄では無かったことで、けれど本当の兄の様に思って欲しいと、他の従業員たちが爆発したのだ。おまけにみかどは受験生。デートらしいデートもことごとく、皇汰の陰謀や他の人達に邪魔されてゆっくりできない。それでも、二人は仲睦まじく今日も勉強をしていた。      
 月曜日は、千景がクマでカフェを飾り付ける。可愛くて、目が痛くなるようなカラフルでホップなカフェに変わり、アイスをメインに高校生から大学生の女の子が多く集まる。また、ハーブティーなど身体を温める飲み物で、冷え性な女の子たちにアドバイスをしている。麗子に取り寄せてもらって、リラックス系の爽やかなアロマでカフェを包み込んでいる。
 火曜日は、イケメンすぎる双子が絶好調。メイクにファッションに、女の子達を綺麗にできるのならばと手を抜かない。スムージーの種類も増え、みかどはメモを片手にいつも焦っている。見たこともない変わった名前の野菜は、まだ区別がつかないようで大変そうだ。本棚の所々にお洒落な硝子の靴の小物や、硝子の赤いバラなど、御伽話のお姫様の小物を飾るのに余念がなく、スマートだった。
 水曜日は、墨の匂いが漂う。桜茶や、抹茶をたてたり、主に自分たちで墨から墨汁を作り、ドラガンさん率いる『俳句を詠む会』は大繁盛だ。たまに朝から将棋を打ったり、百人一首大会を行ったりしている。掛け軸や水墨画、加羅傘で外でお茶会など、独特に、けれど全力で日本文化を楽しんでいる。
 木曜は異様だ。特にインテリアには拘らず、中央のテーブルに葉瀬川率いるゼミ生が集まり、色んな漫画について熱く語る。その時の葉瀬川は、いつものような漫然とした様子はなく、生き生きとした輝いた瞳で話す。飲み物も飲むのを忘れて居る時が多い。一部の熱狂的なファンしか来ないので、たまに一般客が間違えて入りこめばテラスに逃げるかそそくさと出て行ってしまう始末だ。だが、彼らのお陰で、壁に埋め込まれた本棚に本が全て収まっているしメンテナンスもしてくれている。漫画を愛す彼らは、本も愛しているのでこうしていつも綺麗に片付けられているのだ。
 金曜は、相も変わらず大盛況の猫カフェ。愛想のない定宗が、生きた神とされ、引っ掻かれずに触れたら幸せになるとかならないとかで、触ろうとする挑戦者が後を絶たず、みかどが冷や冷やと見守っているが、幸い定宗も分かっているのかけが人は出ていない。怪我人と言えば、ドラガンが定宗に『フランポワーズちゃん』と呼んだときに引っ掻かれた一回だけだ。あれはドラガンが悪い。他の猫たちは、引き取りたいと言うお客に次々貰われて行くが四天王の猫たちは金曜日になると従業員としてやってくる。そんな纏まりの無いカフェだが、店長が居るだけで纏まる。何処に居ても、店長ならばその場の雰囲気を壊さず溶け込み、サービスも忘れない。全てを受け止めてくれるような優しい人なのだろう。
 土日は閉店だったのが、店長の心のリハビリに付き開店し出した今、問題はいつを休みにするか、だ。イケメン従業員たちはその日以外は自分たちの仕事がある。いっそ金曜を閉店し土日を猫カフェにしたら、猫の負担が大きいのではないかと、未だ結論は出ていない。そんな天然な店長がぽとりと落とす優しい雰囲気の『アルジャーノン』。
 今日もそんな幸せな日々が続くと思っていた。
 その日は日曜日だった。珍しく店長がまだ起きてきておらず、勉強しにアルジャーノンにやってきた岳理とみかどは開店準備を始める。窓を開け、テーブルを拭くみかどに、猫に餌をやる岳理。岳理はそのタイミングである秘密を漏らした。
「えええ。店長のお父さんって『TATUMIARISUGAWA』って世界的に有名なシェフさんなんですか!」
「お前、知ってるの TATUMIARISUGAWAを」
「この前の高級ホットケーキミックスの監修さん」
「……合ってるけどな、そうじゃなくて、世界的権威のある人だぞ お前のなんちゃって統計学者なんか並べられないような人だぞ」
「父の名前は出さなくても良いじゃないですか。で、その人が」
「その人が麗子さんの旦那の弟ね。で、麗子さんと鳴海は血は繋がってはないけど一応はこれで親戚になってしまうわけだ。だから、鳴海の母親は鳴海を手放せなかった。――但し」
 岳理はあの写真を胸ポケットから取り出す。
「鳴海の母親は複数の男と関係を持っていて――その中にお前の父親が居るとしたらどうする」
「ええええ」
「鳴海の母親の方が数歳年上だが、あのジジイならばおかしくはない」
「ななるほど。でも、そうだとすれば」