舌打ちもせず言うと手を伸ばす。それは、みかどの胸に火傷を作るには、十分な、熱い熱い言葉だった。フラッと立ち上がった岳理は、晴れ晴れといや、ふてぶてしい程に開き直った顔で、右手を差し出す。
「この階段に忘れていった俺への気持ちは、みかどのだろ」
 そう言われ、みかどは泣いていいのか、笑っていいのか、複雑な顔になっていた。
「んだよ、その顔」
 クッと岳理が笑って、んっと右手を出すように促され、おずおずと右手を、岳理の右手に乗せた。スイッと掴まれて私は立ち上がらせられ、キツく、キツく、抱きしめられた。
「拾った」
 そう言われ、みかどの胸は壊れてしまいそうだった。優しく髪を撫でてくれるその腕に、飛び込んでわんわんと泣く。本当の兄だけを心のよりどころにしていた部分もあったかもしれないが、店長にも岳理にも、アルジャーノンの皆にも受け要られてた今、真実は嘘でももういい。確かな自分の場所を見つけたのだから。