岳理は、みかどより先にその真実に気づき、傷付かないようにそう演技した。それでいいとさえ思ったのは、気持ちがないからか。
「お、兄さんは好きですが、それは、家族だったら嬉しいなってそんな、尊敬を込めた好きです。でも、私は――ど、どんどん勝手に、ご、強引に私の心に侵入してきた岳理さんも、大切なんです」
「……」
 岳理は深く目を瞑り、小さく息を吐く。
「守ってくれなくても、良いです。突き放してくれて、構いません。私とお兄さんをくっつけたいなら、今ここで、メッチャクチャに振って下さい」
 これが最後の、岳理さんへの甘え。突き放してくれたならば、もう甘えたりしない。前を進んで歩いて行く。最後にどうかこれ以上、優しくしないで欲しいと。
「わ、私、優しくされる度、守ってもらう度、意味深な言葉を告げられる度、――抱きしめられた瞬間、切なくて、苦しくて、泣き出しそうで、胸が痛いほど、甘く貴男を想っていました。だから、そんな私が迷惑ならば、お兄さんと上手くいって欲しいならば、今すぐ振って忘れさせて下さい」
 ぎゅううと堅く閉じた目で、みかどは最後の判決を聞く。
「――まじ、かぁ……」
 岳理はゴロンとうつ伏せに寝返ると、やはり起き上がる体力はないのか倒れ込む。
「俺が強引にしたから、つられただけとかじゃねぇの」
「そ、そこまで、私は自分がないわけじゃありません!!」
 そう言うと、二人は目が合う。やっぱり目が合うと、身動きできない程に、怖い。真っ直ぐ目で想いを告げている岳理がみかどは怖かった。
「こんなに我慢したのが、馬鹿みてぇ」
「やーい」
「……んだよ、頑張ったんだぞ、俺は」
「ざまぁみろ、です」
 そう言うとズボンのポケットを漁るが、煙草は見つかってもライターは見つからない。諦めた岳理は、煙草をぽーいっと階段下へ投げ捨てました。
「俺は、鳴海と違って綺麗じゃねえぞ。どろどろしてんぞ」
 そう言って、上半身だけ起き上がった。鋭い目は、しっかりみかどを捉えている。分かっている。その目は冷たく見えて、青い炎でメラメラ燃えていて、ゆっくりゆっくり火傷をつくる、『秘めた熱意』があることを。
「振れるワケねぇだろう ――こんなに好きなんだから」