目の前には、綺麗で自信に溢れている美女に、熊の耳は怪しいけれど、自分を受け入れようとしてくれる優しいカフェの店長、そして自分の様な家族の一員にも認められていない劣等生を助けてくれる弟。余りにも自分とかけ離れた世界に迷い込んだ気分だった。
「皇汰にも、二人にも迷惑をかけたくないで、す。帰りたくないけど、迷惑はもっと、怖い」
迷惑をかけるのが怖いと、女子高生が震えている。泣きそうな、消え入りそうな声で、声を震わせ絞り出すように。
「そうね、迷惑なら迷惑って言うから、その時は喧嘩でもしちゃいましょ。兄弟喧嘩」
「千景さん」
「難しいことは、私の祖母に任せてくれていいから。貴方が此処に来たのはきっと、――此処が必要だったってことだから」
此処――。そう言われ、今まで覆われていた霧がクリアされ、みかどの景色に色がつく。店に入ってからも、周りに気が回らないぐらい、不安が彼女の胸をぐるぐるしていた。勉強方面ではもう劣等生確定で迷惑をかけるのに、家出なんて今すれば更に迷惑をかけるのでないかと不安で、胸を締めつけていた。
だが、店長の声に心が軽くなる。
「ここは、色んな人が居心地良くなる不思議なお店なんですよ。だからみかどちゃんが此処に着た理由はきっと簡単には言えない複雑な気持ちが重なったからですよ」



