担任が飛んで行き、鍵を開けるとスーツ姿の父が立っていた。
「ありがとう。香山先生」
 父は担任と思わせぶりに視線を絡ませた後、少し距離を置いてみかどの隣に座った。
「……」
「これに生活費を振り込むから」

 父が差し出したのは、みかど名義のカードと通帳。テーブルの上から通帳を滑らせみかどの目の前に置いた。通帳を受け取らずに見つめていたら、父は椅子にもたれかかり、こう言った。

「皇汰は元気か」
 いつも通りの父のおかげで、緊張していたみかどはゆっくり笑う事がでた。
「――何を笑っている」

「目の前に1ヶ月ぶりに会う私が居るのに、第一声が皇汰の事だから」
 おかげで、何も期待せずに済むので有り難い。
「お前は」
「分かっています。お父さんが皇汰だけを大切にしていること。私、ちゃんと分かってましたよ」
 そう言うと、通帳を手に取り鞄に仕舞いました。
「学費は甘えさせて頂きますが、生活費はちゃんと返します」
「バイトなら辞めなさい。学生時代は勉強だけに集中していればいい」
父は満足そうに担任を見た。
「私立の女子短期大学ならば、どこでも好きに行け」
 此方を見る事もなくそう言われ、首を振った。
「その事なのですが、お願いがあります」
「……何だ」
 トントンとテーブルを指で叩いて苛立った様子だったが、焦る事なくみかどは父親の横顔を見る。その顔はまだ一度もみかどを見ていなかった。
「受験が終わるまで、連絡をとらないで欲しいんです」
「何」
「つまり少なくとも来年の春までは連絡しないで欲しいんです」
 父の顔がさっと変わった瞬間、父親から香る匂いに、思わずみかどは担任を見た。そして小さく、なる程と呟いた。
「何を馬鹿な事を言ってるんだ」
「だって、お父さんは私の進路や学校生活に口を出すでしょう 私、今の生活がとても充実して満たされて癒やされてるんです。邪魔、しないで欲しいんです」

 そう言うと、父の目がやっとみかどを見た。いや、睨んだ。その瞳には、愛情うを最後まで見つけることは出来なかった。

「邪魔だと 私はFランクの大学に行かれては」
「恥ずかしいんですよね」
 遮って話すと更に機嫌が悪くなったがみかどは続ける。
「お父さんは、私を否定しかしてきませんでした。でも、それは仕方ないんです。お父さんが望む私には、要領が悪くて慣れなかったから」