カフェ『アルジャーノン』の、お兄さん☆



「へ……」
「間違いないわっ! このシルクのような毛並み、黒子のようなブチ、ヴィクトリアーヌちゅわぁんですわ!!」
そう言って、その女性は定宗を抱き締めた。

「えぇ!」
 びっくりして大声を出すと、店長と岳理が出て来た。


「……依頼された厚川さん」
 二人も異様な光景に戸惑っているのが分かる。
「さすが、イケメン探偵ザマス! 誰も見つけられなかったヴィクトリアーヌちゅわぁんを探してくれるなんて!」

「定宗さんは子猫じゃないですよ」
 子猫どころか、ここら辺のボス猫だ。
「ワタクシの前から消えたのが、二十年前ザマス!」
 あの電柱の写真は定宗さんの子猫時代 
 このマダムの言葉が本当だとすれば定宗さんは今、何歳なのだろうか。けれど、定宗は凄い形相で抵抗している。

「あの……お言葉ですがマダム」
 店長が膝を付き、さっと定宗さんを取り返した。
「あらん……」
 厚川さんと言われていた女性は、店長のドアップに頬を染めた。


「定宗さんは、二十年前からこの体系なんです。子猫の写真とは時期が一致しません」
 店長は二十年前に定宗に発見されているから、定宗の事は誰よりも知っているのだ。


「いいえっ!この子は二十年前に私が捨ててしまったヴィクトリアーヌちゅわんです。毎日毎日、忘れもしませんでした。目つきの悪い眼、懐かない気品、低重音の鳴き声、全て全て、昨日のように覚えています」
「す、捨ててしまった……」

 みかどが言葉を失っていたら、岳理が舌打ちをしみかどを庇うように前に出た。
「話しが違いませんか 俺は室内で飼っていた猫が窓から飛び出してしまったという迷子猫だと聞いてましたが」

 そう言うと、さらに厚川マダムはさめざめと泣き出した。

「だって! あなたみたいなイケメン探偵に、捨てたなんて言えなくて……」
「――じゃあ、本当の理由は何なんですか」


 急に機嫌の悪くなった岳理が、無表情で言った。。
「血統書付きの犬を飼ったら、ヴィクトリアーヌちゅわんがなかなか帰って来なくなったから……、元から懐かなかったし……、だからわざと遠くの公園で遊んだ帰りに、置いて帰ったんざ……です」

 チラチラと定宗を見ながら言うけれども、定宗は厚川マダムを見ようとはしない。店長も苦々しい顔をして、厚川さんを見つめている。

「血統書付きのフランポワーズちゅわんは、私が買ってきたドレスも、リボンも喜んでしてくれるのよ!ベッドだって一緒に眠るわ。でもヴィクトリアーヌちゅわんは、ドレスもリボンも嫌がるし、餌代はいっぱいかかるし……」

「犬と猫では習性が違います。では、何で今更、定宗さんを探すんです」
 店長は、必死で感情を抑えてそう尋ねる。

「う……恨まれてたら怖くて………」

 厚川マダムはその場でうわぁぁぁんと、とうとう号泣してしまった。岳理が人目を気にして店の奥へ誘導しようとしたが、みかどが厚川マダムをやんわりとはねのけた。岳理に掴まれていた腕をはねのけられた厚川マダムは、目をぱちぱちさせています。

「貴女が泣くのは、おかしいです。卑怯です。猫は、お人形じゃありません! 貴女が望むように動かないからって、何故捨てるんですか!」

 胸、――胸が痛むのは、定宗がみかどと同じ扱いだからだろう。子どもはペットではない。親の望む通りにできなかったからって、簡単に捨てるのはおかしい。
「もし、本当に定宗さんが二十年前のヴィクトリアーヌちゃんで、貴女が二十年経っても、どんなに容姿が変わっても、見つけられたのなら、確かに愛情はあったのかもしれません。・・・・・・それは、少し羨ましい事です。でも、自分の保身の為に探し出して、また傷つける為に飼うのですか……そんなの、そんなの、定宗さんが一番辛い事です」