「二階に空室がありましたよね」
「あるよ。私が管理人用の部屋に移動してるから、旧私の部屋が」
「じゃあ、みかどちゃん、住んで良いですよね もしかしたら僕の妹かもしれないし」
「えええ でもしききんれいきんとか、家賃とか」
「家賃は要らないけど、私の家具が入ったままでもいい 皆、妹が出来たら喜ぶような嬉しい奴らだし。――私も妹と弟が出来て……嬉しいわっ」
皇汰の耳にフッと甘い息をかけながらそう言うと、そこはまだ中学生。首まで真っ赤にして唾を飲み込んだ。
「じゃあ決まりですよね。大変だ。定宗さん連れて来ますから挨拶して貰わないと。定宗さんはここらへんのボスで、四天王を侍らしていますし。逆らったらここら辺近隣を歩けなくされちゃいますし」
「ええええ」
店長は立ち上がると、カウンターの奥へまた消えてしまった。
「みかどちゃん、貴方はどうしたいの」
店長がいなくなるのを、顎肘つきながら千景は身守る。
みかどは震える両手で、珈琲カップを握り締めて、自分のせいで揺れる珈琲の水面を悲痛な面持ちで見つめる。言葉を――自分の気持ちを言葉にして伝えるのが苦手だった。苦手、と言えば聞こえがいいが、今まで何もかも決められ思い通りに行ったことが無かったみかどは、自分の気持ちを聞かれることはなかった。
「私、……は、私は、その、あの」



