「楠木教授とは連絡取れました」
動揺を隠せない。葉瀬川に連絡を取って貰い、電話番号を教えてもらったまま。全く進歩はない。
「何度か携帯に連絡してるのですが、海外対応の携帯ではないみたいで……」
「そうですか。でも、まあ心配はありませんからね」
「三者面談は、この兄(仮)の僕が行きますので」
「えええええ」
と、その前に何故、店長がみかどの三者面談の事を知っているのだろうか。
「僕の窓辺に飾っていた鶴を見ていたら、折りたくなりまして開いちゃいました」
「お兄さん・・・・・・」
「姉は……どんな人ですか」
「え……」
「大学では、嫌な記憶しか残っていないので……どんな人かなぁと」
ハハッと力なく笑ったが、咄嗟に褒める場所が思い浮かぶような人物では無い。
「みかどちゃんは優しいですね。岳理くんから『お色気糞ババア』と聞いていたのですが、みかどちゃんを見る限りそれが真実なんでしょうね」
今回ばかりは、岳理さんその口の悪いが正直な所は尊敬してしまった。
「小さい頃から姉は要領が良かったから、納得できます。母が帰って来なくても、友人宅でご飯を頂いたりしてたみたいですし」
その上、お金持ちな家に養子に行けたのだから、義母は店長の辛さを何も知らない。苦労を知らないで、財産を管理とか言ってきたのが今更ながら腹立たしい。同時に店長は記憶がどんどん戻ってきてるんだと実感させられた。
「お兄さんには二度と近づいて欲しくないです! でもお兄さんが会いたいなら、私、守りますから!」
「みかどちゃん……」
「おい、邪魔するぞ」
本当にお邪魔虫が登場した。それと同時にみかどは千景の背中に隠れてしまった。
「岳理くん!」
店長だけは可愛らしい満面の笑みを浮かべ駆け寄っていた。
「客に『いらっしゃいませ』は」
将来住職とは思えない、サングラスに黒のTシャツ姿の偉そうなお邪魔虫は、普段と変わらずみかどにそう話しかける。だがみかどがそっぽを向くと、その揺れたお下げを引っ張った。
「いたっお兄さん、今私、髪の毛を引っ張られました!」
「もー、せっかく僕が結んだのに。岳理くん、どうしたの」
水を出すと、岳理はサングラスを取って、深い溜め息をつく。
「依頼主と待ち合わせ。ここら辺で迷い猫を見たってさ」
そう言うと水を一気に飲み干し、自分でおかわりまでする。
「白い毛並みで黒のぶちって、もうあのデブ猫で良くね」
外のベンチで、偉そうに眠っている定宗を指差して言う。確かに白に黒のぶちだ。
「あの……、依頼された猫さんって『ヴィクトリアーヌ』ちゃんですか」



