岳理の事を考えると、何故だが不安に駆られた。その意味は分からない。だが、反面、母が手を差し伸べていたと知る店長の傍は安心を感じている。

 みかどは震える手で父へ電話をかけようとして、電柱のポスターに目を奪わた。


『探しています。子猫名前:ヴィクトリアーヌ容姿:白い毛並みに黒のぶち見つけてくれた方にお礼として十万円差し上げます』

 猫でさえ家出しても飼い主は探しているというのに。みかどは懸賞金を賭けてまで父を探したいと思わないし、父も探偵を雇ってまではみかどの一人暮らしを心配などしないだろう。この電柱のポスターよりも薄い縁に溜息が出てしまい、急いでカフェの中へ走り出した。

「こ、こんにちはー!」

 皆、思い思いのモノを持ち、修復作業をしていた手を止めてみかどを見る。聖マリア女学院の清楚な制服は男たちには何か色んな思いが浮かぶらしい。

「着替えて来ますっ」
「みかどは私と一緒に本棚に本を入れていこうね」

 千景の言葉に、みかどは元気よく頷く。ちらりと目線で探した店長は口元に布巾を巻いてマスク代わりにすると、倉庫の扉の割れた部分を掃除している。定宗も細かいゴミを尻尾で払っていた。
「これじゃあ暫くは営業できないわ」
「鳴海ん、ますます貧乏になるじゃん」
「どうやって生活するの みかどちゃんの微笑みの霞みでも食べるの」


「あのうー。皆さん、口より手を動かして下さいねー。終わったら今日はホットケーキ大会なんですから」

 店長はいそいそと手を動かしながら、倉庫の中の麗子のお土産『TATUMIARISUGAWA』のホットケーキミックスを見て涎を垂らす。
 麗子が世界中に追いかけている、神の手を持つと言う料理人『TATUMIARISUGAWA』。今、世界各地で料理のプロデュースに引っ張りダコだが、こうして、金持ちのファンはパスポートを持って追いかけていくぐらい美味しい。その神の手が作ったホットケーキミックス一年分。一体値段はいくらなのか怖くなるが、それよりも口の中に広がる甘さを想像したら、店長は天井まで届きそうなスキップをしてしまう。

「お待たせいたしました! 私も頑張りますっ

 お下げを揺らしながら階段を下りてくるみかどに目を細めながらも作業に戻った。一番、店を壊した皇汰が、店の修繕に現れないのをみかどはぷりぷり怒っていたが、店長の言葉で固まった。