「どう言う事! 嘘っ。みかどの本当の兄ッて、――貴方なの」
「……」
 岳理は徐にポケットから煙草を取り出すと、口に咥えてライターで火を付けた。その吸い慣れた大人の、ごつごつした指先にみかどが惹かれているのは、明らかだった。なのに、だ。
「そうだよ」


 その真実は、嬉しい真実なのか苦くて悲しい真実なのか、みかどにははっきりと分からなかった。芽生える前に積まれそうになる気持ちは、消えてしまえるのか。その名前を知る前に儚く消えていってしまうのか。

「ど、どど!」
「みかど、落ち着いて! 皇汰くんの名推理じゃないっ。やったね、本当のお兄さんが居たのよ! 本当に居たのよ!」

 千景が感激してみかどを強く抱きしめる中、岳理はそのまま何も言わずに車に乗り込むと、妹であるみかどを一瞥もせず去って行った。
「あれー 岳リン帰ったのー」

葉瀬川がカフェから顔を出すと、みかどは葉瀬川に詰め寄った。
「は、葉瀬川さんなら知ってますよね。岳理さんのお母様の事」

「え、なんで突然 岳リンの母親は、俺に跡を継がせたいっていう過激派の分家に階段から突き落とされたんだよね。あ、でも祖父がそいつら全員追放しちゃったよ。爺さんねー、岳理のこと大好きで激甘でさ。あの悲劇から守るために私を跡取りにしようかと遺言残すぐらいねー」

 母親の話を聞きたかったのだが、そこに渦巻く大きな闇の話をされ、みかども千景も御互いを抱きしめ会いながら震え上がる。

「そ、――それで、岳リンの母親ってみかどの母親なの」
 千景が恐る恐る尋ねると、葉瀬川が目を丸くした。

「ええー、そういう繋がりー えー、分からないなー。私、過激派の分家出身だったから岳リンの母親に会わせてもらったことないかもー」
「ち、千景ちゃんっ」

 いっぺんに色んな出来事がみかどを襲い、怖くなる。千景を抱きしめながら、知りたかった真実が――一番知りたくなかった真実へと繋がって行く。酷い、とみかどは思った。なぜ、――なぜ岳理は、みかどに階段に落としたモノを聞いてきたのだろうか。兄と妹なのに。その真実は余りにも酷過ぎる。

「みかど」
「千景ちゃん。今日、一緒に眠ってもいい」
 考えたくなくて、心細くて、泣きだしそうな自分を飲み込むためにみかどは千景に抱きついた。
「いいわよ。襲っても知らないんだから」
 抱きしめ合いながら、みかどはただただ今は現実を生きるために泣きたくなかった。岳理の真の思いなんて検討もついていない。ただただ、店長の監禁解放を本当に信じていた。