その日は、カフェ『アルジャーノン』創立以来の大事件が運ばれてきた。

 店長が百均で買ったピンクのゾウサンジョウロを持ち、みかどがテラスへ向かう時、その人はやって来た。
「いらっしゃいま……」
 黒いTシャツにジーンズのラフな格好の『迷』探偵岳理。

 驚いて固まってるみかどをよそに、『迷』探偵さんベンチで眠っている定宗に、お菓子を渡しました。

「何しに来たんですか!」
「迷子の猫をこの付近で見た奴がいる」
「だ、だから何で此処に!」

 そう言うと、涼しい顔をして首を鳴らしました。
「俺と会えば、記憶ぐらい思い出すんじゃねーかな、と」
「あ、荒療治過ぎますよっ」

 そこへ、キッチンから店長が此方に向かって来るのが見えた。今日は店長は虎の被りモノをしていた。目から上を隠すようなマスクだ。


「お兄さん、それ、借ります」
 みかどは瞬時に店長の被りモノを岳理に被せた。
「あの、そちらの方は」
「……っち」

 余り凝視されないように2人の間に割って入る。
「猫探偵さんです!猫に素性を知られてはいけないらしくて」
「なるほど。あのメニューは」
 なるべく時間がかかる注文をお願いし、キッチンに押し込みました。

「私が接客しますから!」

何とかキッチンへ店長を押し戻し、慌ててテラス席に戻ると、不機嫌そうな『迷』探偵がみかどを睨んでいた。
「か帰って下さいよ!」

 そう言うと、徐に煙草を取り出して、睨まれました。

「テラスは吸っていいのか」
「聞く前に、火を付けないで下さい。どーぞ!」

 そう言って、中の入り口付近から監視する事にした。煙草を吸っている背中が腹立たしくふてぶてしい。今店長がフラッシュバック起こしたらとは思わないのだろうか。

「みかどちゃん、お水お願いします」
「はい! はーい!」
 元気よく振り返って、お盆を受け取ると店長はお盆を離さない。

「みかどちゃん」
「はい」
「……隠し事、してませんよね」
 やっぱり隠し事したくないし、嘘もつきたくない。店長の悲しげなその顔を見て、みかどは奮い立った。岳理には帰って頂こう。