「定宗も分かっていないわよ」
「うーん。でも定宗さをは俺の大事な家族だから、みかどちゃんに兄弟としても帰してあげられないし。ここの全員と兄弟のように仲良くなる、じゃ駄目ですか」
「全然駄目に決まってるだろ」
皇汰がのんびり喋る店長に苛々を募らせていくのが目に見えて分かる。皇汰は焦っている。あの家で姉が幸せになれないのは、火を見るより明らかで、それなのに愛想笑いで懸命に生きている姉を救いたくて。
「耐えられないんだよ。姉ちゃんが理不尽な扱い受けるのも、それに慣れてしまって心が乾いていく姉ちゃんも。もし、血が繋がった兄がいて、その人が姉ちゃんに優しくしてくれるなら、――あんな家、戻らないで良いんだ。あんな家族が機能していない家、帰したくない」
聡明で、利発的で、何をしても飛びぬけて優秀な皇汰は驕らず周りを見て、優しい子に育っていた。みかどが我慢し何度も涙を流しているのを、ずっと知っている。小学生時代から、カードを持たせて何でも好きなものを買ってくれる親よりも、台風の日に一緒に眠ってくれたり、誕生日に好物を作ってくれる姉に愛情を傾けていくのも仕方がない。
「千景さん」
店長はクッキーを手に取り、眺めながら穏やかな目で言う。



