壁一面に埋め込まれた本棚。毎日変わるインテリア。そして窓辺に置かれたサボテン『アルジャーノン』
 Cafe『アルジャーノン』は、入った人々を魅了する不思議なお店だった。

「出来そこないは、この家にいらないの」

 綺麗に磨かれた爪は赤く、まるで魔女。アイメイクは何時間かけたのか濃く厚く、威圧感で押し潰されそうになる。魔女に苛められているのは、高校生のお下げ姿の女の子だった。今時にしては珍しく、ワンピース型のセーラー服を改造せず、膝より下まで丈がある。一見、少しダサい姿のその少女は、眼鏡の奥の瞳を揺らしていた。

「聞こえなかった 貴方なんて要らないの。聖マリア女学院の大学へ進学できないで大学受験ですってああ、恥ずかしい」

 呆然としていた少女は、テーブルの上にひっくり返されたカバンの中身を集めながら、唇を噛みしめる。今日、学校から来たのは、彼女の3者面談についての御知らせだ。彼女が通う聖マリア女学院は幼稚園から大学までエスカレーター式で進めるお嬢様学校。選び抜かれた淑女に育つと上流意識の保護者から人気が高い。幼稚園でのお受験は失敗した彼女は、小学校からそこに入学していた。
 中学三年のとある日に3者面談で学力について話し合いたいと来れば、魔女でさえ理由が分かってしまう。

「ウチの家には、皇汰(こうた)さえいればいいの。優秀な血を引くあの子が居れば」

 彼女の義弟は中学二年で現在有名進学校に通っている。一年の時に行った全国テストで全教科満点という快挙を成し遂げ、漫画の中の様な絵に描いた天才として有名だ。それに、魔女の美貌を色濃く受け継ぎ、中学二年生にして端正な顔立ちをし、バスケ部部長と生徒会長もこなし学校や他校にファンクラブまで出来ている。

「三者面談も、私は絶対行かないわよ」