犬が鼻先で指した方向には、ボロい衣服を着た男に馬車の荷台に押し込められそうになっている小さな少女がいた。
「何やってるんですか!」
足を止めずそのまま馬車の方に走っていく。
「な、なんだお前は!」
誰もいないはずの路地裏に人が現れたことに驚いたのか男の動きが少し止まる。
(今だ!)
男の隙を見つけ体ごと突進すると男は後ろに尻餅をつき少女から手が離れた。
膝をぶつけたのか両膝が熱を持っていたが、それを我慢し少女に駆け寄る。
「大丈夫?」
小学校の低学年くらいのその少女は怯えたように体を震わせていた。
「大丈夫、もう大丈夫よ」
そっと少女を抱きしめて声を掛ける。
『ローザ!』
犬も近寄ってきて、ペロペロと顔を舐める。少女はローザと言うらしい。
「そう、ローザちゃんっていうのね。もう大丈夫よ。助けに来たからね」
安心させるように名前を呼びながら背中を撫でる。


