翼を広げて



制服のボタンに骨ばった手が触れて、必死になってもがくけれど、男の人と女の人の力では雲泥の差がある。


「かわい。すぐ気持ちよくなるから…ね?」


非常階段の扉が開けられるっー




「………なにしてんすか。」





柔らかな声が聞こえて振り向けば、ゴミ袋を片手に持った斎藤くんが立っていた。その表情は無で、何を考えているのかわからない。



「んだよお前。」


「……だから、なにしてんすか。」



ゴミ袋を脇に置くと、静かに近づいてくる彼。


斎藤くんが現れたことに安心して、全身の力が一気に抜ける。

っ……よか、った……。


「っ……」


「あ、ちなみに警察もう呼んでますんで。」


「っ、お前、っざけんな!!!!」



男の人の腕が体から離された瞬間床に崩れ落ちた。

すると次の瞬間…っ



っ、ダメ!!!!



スローモーションのように黒髪が宙に舞う。




……だけど、殴りかかろうとした男の人を斎藤くんはいとも簡単にかわすと、腕をひねり上げてその人を壁に押し付けた。決して乱暴でないその淡々とした一部始終にあっけにとられる。


斎藤くん……が?



「業務妨害なんで、帰ってください。」



静かで無機質な声がそう言葉を綴るがいなや、男は悪態をつきながら去っていった。