話しかけられても曖昧な反応しか示さないわたしに飽きてしまったのは、いつの間にかチャラ男はいなくなっていた。
代わりに、どこか独特の雰囲気を繕った、黒髪を横に流した男性が隣に来ていた。
「興味なさそうだねえ。」
低くつぶやかれて、初めて自分に話しかけていることに気づく。
「あ…いや、別に。」
「キミ何歳?」
「……高二です。」
「大人っぽいね。」
スッと手が伸びてきて頰に触れられたことで、体がビクッと反応する。
やだ……、
「俺、キミみたいな子タイプかも。」
「あ、の、っ」
彼の冷たい指先が首筋に触れて、怖くて体が動かない。
慌てて顔を上げれば、周りの人も男女で組み合わせになっていて、こちらに気づく人は誰もいない。
「二人で抜け出そうか?」
「いや、…、」
もう片方の腕が伸びてきて腰にガッチリと固定される。
「だって、目当ては同じでしょ?」
「やめてくださいっ。」
竜馬…っ、ごめん。言うこと聞いていればよかった。
なのにわたしときたら…っ
背中を這い上がってくる腕から逃げようとするけれど、角に追い詰められていてこれ以上逃げ場はない。
ニヤリと口角を上げる彼が怖くて、瞳が潤む。
「泣いたらそそるだけだよ?もしかしたら誘ってる?」
「やっ…め、っ」
強く腕を引かれて、有無を言わせぬ力でカラオケボックスから連れ出される。
助けを呼ぼうにも誰も気づかない。
それにみんな、わたし達と同じような雰囲気になっている…っ
だったらこのまま逃げられたらー
「おっと、逃げないでね。」
非常階段へ向かっているのに気付き、本気でやばいことに気づく。
慌てて携帯に手を伸ばそうとするけれど、スクールバッグを置いてきてしまったことに気づいて、体が震える。
「やだっ!!やだっ!!やー」
声を上げると、口元を押さえられて、そのまま連行される。
やだっ!!
「んんっ、っ!」
やだ!!!
いやだよっ……
日々の行いのせいなのかなっ…?
玲奈に対する秘めた思いを神様が罰したのかなっ……。


