バッグに定期試験の教科書を詰めていると、教室の奥の方から視線をチラチラと感じた。

今まで過剰に周りの人の視線を気にして生きてきたわたしは、いつの間にか気配で自分のことを話しているのがわかってしまうようになっていた。

ドクドクドク。

なんだか嫌な予感。

首の後ろの毛までもがわたしの背後に集中していて、自分の息遣いだけがやたら大きく聞こえた。

無難に無難に生きることが目的のようであるわたしの人生。ユリに出会って変わったのは確かだし、竜馬がわたしの存在価値を気づかせてくれたのも確か。だけど、わたしの中の根本的な何かは、今までと変わらず弱虫なんだ。

まるでネズミがライオンに対して強がっているみたい。


「ね、ねえねえ!」


予想は的中し、『行きなよ』、『あんたが行ってよ』の小さないざこざの後に一人の女子生徒が声を上げる。名を言わずともわたしに向けられたものとわかってしまうのは、長年の経験。

どうかどうか、平穏にこの場をやり過ごせますようー


「合コン来ない?」

………「へっ?」

一瞬思考停止して、もう一度改めて彼女の言葉を脳内でリプレイする。『合コン来ない?』

ご、合コン、ですか。

聞いたことはあったけれど、まさか本当にそんなものが実際高校生の間で行われているなんて思わなかった。

まるでお見合いみたいで面倒臭そうだなあと感じていたそれが、まさか自分に来るなって。でも、またどうしてー


「男女一人ずつ人数が足りなくて…ごめん!お願い!」


パチンと目の前で申し訳なさそうな表情をする彼女と、その数歩離れた場所で期待いっぱいの視線を向ける彼女らに、だんだんと胸底が冷えていった。



なあんだ。

そうか、人数合わせか。



そう思ったらなんかどうでもよくなって、



「いいけど。」



って、知らないうちに言葉を出していた。


はちゃめちゃにしてやりたかった。合コンを、全てを。


もちろんそんな勇気はないけれど、そんな気持ちで答えていた。