「なんだっけ?」
「へ?」
「名前。」
「あ、」
名乗ろうとしたところで、ふと低音な声がわたしの声を遮った。
「藤宮咲。」
「へーえ。」
斎藤君はつまらなそうに頷くと、今度こそ寝落ちていった。
「神木くん、さっきは無神経なことを聞いて、ごめん。」
山本さんの綺麗に透き通った声は、か弱い雛鳥の悲痛な鳴き声をも消してしまうカッコウの声と重なった。
「だったら聞くな。」
そんな正論、よく言えるな。
思わず苦笑が漏れそうになる。
…わたしには、言えない。
「ご、めん。」
「謝んな。めんどくせえ。」
竜馬が背を向けたところでチャイムが鳴る。ちょうど良いタイミング!ナイス!
「次なんだっけ?」
竜馬がわたしに聞いたことに安心感を覚えながら、時間割表を出す。
「自分でチェックしなよねー。」
「無くした。」
「はあー…っと、家庭科。」
「…だりい。」
髪をくしゃっとかきあげて、スッと流し目を向けるその姿に、全神経が集中している。
こんなにも体をほてらせる責任取れよ、バーカ。
「あ?」
竜馬は変なところで勘がいいのか、眉間にしわを寄せてそのビー玉みたいな瞳でわたしを軽く睨んでる。
「ほら、行くよ?」
教科書をまとめて彼を促せば、わかってるわバーカ、って悪態をつきながらもわたしの隣に並ぶ。
カッコウの雛を押しのけて親が餌を与えてくれたかのような、そんな変な優越感に浸っていた。


