「意味わかんねえ。」

そう言って呆れたように竜馬が笑うと、山本さんがぐいっと彼に詰め寄った。

「ねね、神木くんって彼女いるの?」

「…は?」

「なんか、気になって。」

小さく首をかしげる彼女は恥ずかしそうにはにかんでいる。

ぐらり。視線が反転しそうになって意識を保つ。な、何を聞いてるの…?わたしでさえ…怖くて聞けないのに。


「それ、課題と関係あんの?」


刺さるように冷たい響きを含む声で竜馬は言う。

さっきの態度とは全然違う、心を閉ざした後のいやな雰囲気を繕っている。

それに心なしかホッとしている自分がいるのを知っている。

わたしはまるで巣立ちできない雛鳥みたい。竜馬から、離れられなくなっている。
こんなに依存したらいけないのに…ずっと餌を待っている。もっと、もっと。


「あ、いや…ごめんね?」


小さく謝る彼女は本当に傷ついているように見えた。

そんな彼女を見て雛鳥のわたしは、もっと、もっと、って騒ぐ。もっとわたしにきてよ。新しい雛なんていらない。わたしだけでいいから。

カッコウの雛が自分の巣に侵食してきたみたい。

いつだったか竜馬が教えてくれた。カッコウはその鳴き声で慣れ親しまれているけれど、実際は自分で子育てをしないで、他の鳥の巣に卵を産んで育てさせる習性があるんだと。

だからその巣の雛は巣から落とされたりして、カッコウに親を横取りされることが多々あるらしい。


「で?俺、寝てもいいの?」


斎藤歩くんが気だるげに尋ねたことで、ピンと張った緊張糸が緩んだ。


「あ、えっと…あの、ありがとう。」


わたしが急いでお礼を言うと、小さく目を細めて笑った。