HRが終わり、授業開始ギリギリになって戻ってきた数学のノートにひとまず安心しながら、わたしは鉛筆ケースを開く。

げっ。シャーペンの芯持ってくるの忘れた。

わたしは慌ててもう一度中身を確かめるけれど、どこを見ても芯は出てこない。

最悪だ…もう、人生終わった。

焦る自分をよそに、心の奥底の自分がほくそ笑んでいる。あなたの生きている世界では、細い墨の塊がないだけで、人生が終わるのか、と。

仕方ないじゃん。わたしはもう片方の自分に言う。その芯がないとメモを取ることができないんだから、って。

夏帆に芯があるか聞こうか迷う。数学の宿題を写させてあげたんだし、別にいいでしょ、って思うけど、なぜか自分から尋ねることに抵抗心がある。


「か、夏帆。」

斜め後ろの彼女に声をかければ、

「なに?」

って当たり前だけど返事が返ってくる。

「本当に悪いんだけど、シャーペン貸してくれないかな?」

「いいよー。珍しいね、咲が忘れるなんて。」

「ごめんね、ありがとう!」


はい、と手渡されたらシャーペンを見て、すぐに100円シ◯ップのだなってわかる。

夏帆は他にもたくさん良いシャーペンを持ってる。かわいいピンクのとか、見覚えがある。なのに数学を写させてあげたっていうのに、わたしに貸すのはこれなんだ?

膨れあげてきたいらいらを抑えるようにシャーペンを押せば。


「…芯ないし。」


めんどくさい。

人生、本当に終わった。


こうなるんだったら、最初からシャー芯ない?って聞くべきだった。