「…ジャムパンいる?」
「いらない。」
今日はお昼休みを抜け出せる日だった。
いつの日かの音楽室で、わたしは竜馬から二、三歩離れた場所で、背中を壁につけて座っている。
前だったらここで一人で居られることが嬉しかった。だけど今は…
「お前弁当、それ?」
「あー、うん。」
竜馬と居られることが嬉しい。
「残すの?」
「あんま食欲ない。」
「もったいねえな。残すなよ。」
「だって……」
あんぱんなんだもん。
わたし、あんぱんが大っ嫌い。
「チッ。俺食べるから貸せよ。」
「え?」
「ん…!」
そう言って腕を突き出す竜馬に立ち上がって渡す。竜馬はいつものガラクタの上を陣取っている。
「うめえじゃん。」
竜馬はジャムパンを片手にあんぱんを三口でたいらげた。
「お前のお母さん、これ作ったの?」
「………。」
「…なあ。」
「あ、うん。」
竜馬は不審そうにわたしを見ていたけれど、結局そのことについては何も触れてこなかった。