今日はお父さんが早く帰ってきた。
「お誕生日おめでとうお父さん!」
一番に伶奈が走って行った。
お父さんの腕に飛び込むその姿は、誰が見ても微笑ましい親子の姿だった。
「おお、伶奈!ありがとなあ。」
お父さんは伶奈を抱き上げる。伶奈はギュッとそんなお父さんに抱きついている。
頭、痛いかも。
「お誕生日おめでとう、お父さん。」
お母さんに続けてわたしもそういえば、お父さんは目を細めて嬉しそうに笑った。
「ありがとな、咲。」
ソファの後ろに隠してあるのは、紅色のマフラー。端っこがほつれてしまったけれど、なかなか出来は良い。
ラッピングされた紙袋に手を伸ばしかけた時、ありがとう、という声が聞こえ顔を上げる。そこには顔をしわくちゃにして喜ぶ父の姿があった。
すごく似合ってた。
お母さんと伶奈からのマフラーとセーター。
緑と紺色ですごくオシャレで、有名ブランドのそれらは、お父さんにとても…とても、似合ってた。
「こんなに綺麗なマフラーは初めてだよ!ありがとな、二人とも。」
「へへっ!」
有名ブランドのものでもなんでもない、お父さんが好きな赤色で作ったそれは、今見たらすごくダサかった。
誰にもばれないように紙袋をソファの下に押し入れて、その中から手紙を引っ張り出して手渡した。
シナモンロールがあったのにもかかわらず、お母さんはショートケーキも焼いていた。
イチゴがたっぷり乗っていた。
お父さんは言ってた。
「こんなに幸せな誕生日は初めてだよ。」
って。
「伶奈もいて、お父さんは嬉しい。」
わたし、微熱があるかと思った。
だからみんなに謝って、早めに寝た。