シナモンロールの香りがした。


「伶奈がね、どうしてもケーキが食べたいって駄々っ子でね。」


お母さんはシナモンロールをオーブンから出す。

ふわっと香るその匂いが体にまとわりついてくる。


「そんなこと言ってないもん!」


ソファで宿題をしていた伶奈が声を張り上げる。


「お母さんがピーマン無理矢理食べさせようとするからだもん!」

「またそんなこと言って!駄々っ子にはあげないわよ。」


お母さんはそう言ってお皿に一切れ分シナモンロールを入れる。


「はい、咲ちゃん。」

「ありがとう。」


テーブルに座れば、伶奈のジトーっとした視線を痛いほど感じる。


お母さんが台所で麦茶を作っている間に伶奈を手招きする。

するとクリクリの瞳がぱあっと明るく光る。


「しい〜!」


そう指を口元に当てれば、伶奈も同じように頷く。


伶奈は今日は二つ結びをしている。

お母さんが結んであげたのかな。


嬉しそうにシナモンロールを頬張る伶奈に全部あげた。



「あっ!こら、伶奈!」

「きゃー!」


伶奈は慌てて戻って行く。


「もう咲ちゃんったら、優しいんだから。」

「ごめん、お母さん。」

「咲ちゃんみたいなお姉ちゃんでよかったわねえ、伶奈。」

「へへっ。」


お母さんは、いつでもわたしに甘い。