翼を広げて


いつの間にか神木竜馬は足を止めていた。

それに気づかないで背中に頭をぶつけると、ふわっと甘い香りがした。


お日様が恋をしたような…そんな、くすぐったい匂いだった。


「……空ってさ、」

「…っ。」

「無限大に広がってる。でも、人間に無限なんてない。だから、人は空に恋するのかもな。」


彼の低い、でも心地良い声が自然と流れ込んできた。

神木竜馬の背中は、思っていたよりも大きかった。


「みんな自分にないものを求めたくなる。夢とか、希望とか。でも、地面って、自信のなさを表すよな。」

「………。」

「俯くのは弱い印。だけど………、」


ジャリ。

黒いスニーカーが近づいてくる。


ふわっとまた、甘い匂いがしたと思ったら…



目の前に、いた。



いきなりわたしの目線に合わせてしゃがみこんだ神木竜馬に驚き、慌ててもっと俯く。見られたくない、こんな顔…この人だけには、強いままの自分でいたいよ…っ



それでも、見えちゃう。

キリッとした、ガラスみたいな瞳。

わたしだけを見つめる、その瞳、見えちゃうよ…



「……助けてって、意味でもある。」