翼を広げて


「…はっ?」


わたしは思わず振り返ってしまった。

ああー、しくじった。ここで振り返ったらダメだったのに。


ビー玉みたいな瞳がすぐにわたしを捉える。


「…名前」

「…は?」

「名前なに?」

「…藤宮、咲」

「咲」


まさかのクラスメイトの名前を知らなかったことに驚きながら、さらにいきなりの呼び捨てに不信感が増す。

どうしてそんなに平気でいられるの。

さっき怒鳴ったじゃん。

怒ったじゃん。八つ当たりしたじゃん。

それに…女子呼び捨てにしたら、周りからどう見られるのか、考えないの、この人?


「俺好き」

「……へ?」

「その名前好き。笑うって意味だろ?」


何を言ってるの、この人。

頭、やっぱりおかしいや。


「巫女が舞い踊る様子が、神様を楽しませてた。笑ってる人には、『口』がある。それを『关』と組み合わせて、咲。笑って顔が華やかになるっていう意味と、花が咲いて華やかになる姿、どっちも掛け持ってる」


神木竜馬はふわっと笑った。

その瞬間、全ての音が消えたかと思った。

まるで天使みたいだった。

どうしてだろう。胸の奥が、じーんと熱くなった。

心の中に誰かがいて、その人に誰かがチョコレートをくれたような、そんなくすぐったい気持ちになった。

それにそんな意味があったなんて知らなかった。今、初めて聞いた。



「良い親じゃん。」



神木竜馬は微かに瞳を細めた、



「似合ってる、その名前。」