そのあとは、いつものように幼稚園児みたいにぐずる伶奈をなんとか説得させ、家の中はまた静かになった。
「伶奈ったらね、今日学校の帰りに泥だらけになっちゃったみたいで…」
お母さんは伶奈がいかに悪い子だったかってことをまくしたてる。
「とにかく、咲ちゃんみたいにしっかりした子になってもらいたいものよ。」
って言って、ふふっと笑う。
わたしも笑い返すけれど、内心また、ドッと疲れた。
おやすみって手を振って寝室に行けば、やっと自由になれたって思ってため息を漏らす。
ベッドに身を投げても全然眠れなくて、ただ疲労感が増すだけだった。
何時間か経った頃、玄関の戸が開く音がして、お父さんとお母さんが囁き合う声が聞こえた。
わたしを起こさないようにいつも気を遣ってくれている。
まあ、ドアがあく音でいつも起きちゃってるんだけどさ。
「伶奈はどうだった?」
「もう本当にやんちゃなのよ、あの子は。」
二人で低い声で笑っている。
「いやあ、でも、そろそろ本当に我が家の子になるんだなあ。」
「ついつい可愛い服いっぱい買っちゃうもんだから困っちゃうわ自分に。」
「ははっ、小さい女の子、欲しがってたもんな。」
幾度となく同じ会話を聞いたような気がする。
あ、
頭痛い。
そんな時に、なぜだか、神木竜馬の涼しい表情が浮かんだ。
『人間の方がよっぽど楽してるんだよ。』
そういった時のあいつの無表情な顔を思い出し、身震いした。