翼を広げて



「っ……」


そろりと携帯を受け取って耳に当てる。


「……もし…も、し。」


恐る恐る声を発する。もう一度斎藤くんの方を振り返れば、全く興味がないのか壁に頭を預けて目を瞑っている。…寝てる?えっ、寝てる?!


『お前何してー、』

そこまでして竜馬の声が途切れる。

『んだよその声。』


低音の掠れた声が電話越しに聞こえて、どうしてかまた涙腺が刺激される。

さっきの男の手の感触を思い出して震えが再度体を襲う。全部、全部違った。竜馬のと、全然違った…っ


「………、別、に。」


強がって出した声は想像よりも小さかった。


『なんで斎藤んとこいるんだよ。』


苛立ちを含む声になんと返せばいいのかわからない。言えないよ…っ


「…。」

『…おい。』

「………カラオケ。」

『…は?お前行ったの?』

「…。」

ごめんね、竜馬。

『はあー。バッカじゃねえの。』

「……ぅん。」

やばい、声が震えちゃう…。

『まじうぜえんだけど…………今どこ。』