圭吾のブレザーの裾を少し引っ張り、



「案外簡単かも。タイミング」



こう言って圭吾を見つめる顔は、



柔らかく目を細めていた。



初めて変わった香乃子の表情は、



人形とはかけ離れた優しい笑顔だった。





「香乃子~!! やっと見つけた!! 朱羽を励ます会するって言ったのに居なくならないでよ~!! さっき教室行ったら朱羽も居なくてさ~」




「……うるさいのが来たわ」



廊下の端から駆け寄ってくる美那を見て小さく呟いた香乃子の顔は、



いつもの無表情に戻っていた。



「佐藤さん」



美那に向かって一歩、歩みを進めていた香乃子が振り返る。



「タイミング、次は逃さないよ」



圭吾は香乃子にこう言って、人懐っこい笑顔を浮かべて見せた。



それに応えるように、香乃子は静かに微笑んだ。





タイミングは、




すぐそこに…………。





おわり