「ねぇ。村田くん」

「なに?」



夕暮れの廊下は、二人の影を長く伸ばした。



それを何の気なしに見下ろしていた香乃子は、そのまま隣に居た圭吾に話かけた。



「タイミングって難しいものね」


「はぁ?」



ため息混じりに呟いかれた香乃子の言葉に、思わずそちらに顔を向けた。



その表情はいつもながらの無表情で、考えてることがサッパリ汲み取れない。



圭吾は、この人形のように変わらない香乃子の表情がいつも不思議だった。


「もし、朱羽が伊崎と廊下でぶつからずに村田くんにラブレターを渡せていたら……」


「変わらないよ」


圭吾は香乃子の言葉を笑顔で遮る。



圭吾の笑顔に、香乃子は言葉を飲み込んで口を閉ざした。



「理緒は朱ちゃんと結ばれる運命だった。……そう思わないと諦めもつかないって」



こう言って圭吾は、オレンジ色の空を見上げた。



親友が片想いしてる相手を好きになった。



最初から報われるつもりも、成就させるつもりもなかった淡い恋心。



「村田くん」


「んっ?」



呼ばれて振り返った先には、さっきよりも近くで自分を見つめる香乃子の顔があった。