大都会東京。人が行き交うのが一番多い場所。
 そんなところに、幽霊が入る隙があるだろうか。
 そもそも、幽霊などいないだろうという人がほとんどだろう。
 小松田ゆずるも、そう思っていた一人であった。
「…まいったなぁ」
一人呟く。
端から見たらおかしな人間だが、彼が人に見られることはごく稀な出来事だ。
 なぜなら彼は幽霊なのだから。
 鏡を見ても自分の姿を確認することができない。ものを食べれない。浮いている。
 この現実を突きつけられて、まだ「俺は生きている!」というやつはかなり面倒くさいやつだろう。
「せめて何か覚えていれば…」
頭をわしわしっとかきむしり、唸る。
 ゆずるには記憶がない。
 わかるのは自分の名前のみ。