「あー、あっちぃ。」

そう朝練終わりに部員の汗の臭いが篭った部室でワイシャツのボタンを閉めながら呟くと、

「それなぁ・・・」

そう憂鬱そうに返してきたのは、我が男子バレー部の副部長であり、俺の一番の親友でもある“アキ”こと望月彰(もちづきあきら)だ。
こいつは本当に部活一筋で、部内で一番の努力家で、故にエーススパイカーだ。同時にチームのムードメーカーでもあり、近くにいると熱気がくる様な気がするぐらい熱い奴だ。

そんなアキだけれど、いや、そんなアキだからこそ、俺が大きな信頼を寄せているのかもしれない。
そんなことを考えていると、

「おい、ハル?どうした?」

アキは黙っていたのを不思議そうに見てきた。
こいつは俺の事を“ハル”と呼ぶ。
アキを信頼しているなんて言ったら絶対に

『ぷはっ!そんなの分かってるって!俺も信頼してるぜ!司令塔!』

みたいな事を言って俺の背中をバシンと叩くのだろうと思い、想像しただけで暑苦しかったから、

「んー、何でも?」

と曖昧に片付けておいた。


俺達男子バレー部は、県ではそこそこ強く、全国大会の切符を掴めるか掴めないかぐらいの実力で、学校の期待と注目を集めていた。
中でも俺とアキの2人はこの学校ではちょっとした有名コンビだ。
2人で廊下を通れば、

「お!ハルアキじゃん!!」

と“ハルアキ”と一纏めにして沢山の人から声をかけられる。
2人じゃなく、俺1人で歩いていても、

「春樹ー、今度の試合いつ?」

などと声をかけられる。

俺個人で呼ばれる時は、基本アキ以外は“春樹”呼びだ。
俺はこの、少し周りから特別扱いされている様な、一目置かれている様な感じが少し苦手だった。
実を言うと俺は、皆でワイワイやるよりも、1人で静かにしている方が性に合っていると思う。そう言ったら、じゃあ部活はどうなんだ、と思われそうだが、分かってもらえるか分からないが、部活は別物だ。

そんな俺とは違ってアキは、部活と変わらずあの性格通り皆でワイワイ系だ。
俺も馬鹿じゃないし、空気は読める方だと思うから、周りの空気を読んでいつもワイワイしているけれど、自分の意思に背いてテンションを上げたり、
面白くないことに笑ったりするのは結構ストレスで、家に帰ってから毎日風呂にゆったり浸かってストレスや疲れを取る様にしていた。


だが、どれだけゆったり風呂に入っても、毎日大量生産している笑顔のせいで、
顔の疲れはなかなか取りきることが出来なかった。