理香に話したのは自身の過去。
地獄より地獄で、 拷問より拷問。

親から受けた『虐待』の話だった。

スッと目を閉じれば思い出す。
熱湯による目覚ましに朝起こされ、 家事をやらされながら暴力をうけ、 酒を飲んだ父に投げられ踏まれ、 ドラッグに手を出した母にナイフで切られ、 夫婦そろって暇つぶしのように虐待を受ける日常。
生まれたときからその環境に居た京は、 本気で自分の役割が『この夫婦のストレス発散のために生まれた存在』だと認識させられていた。
痛みを超えた痛み。
恐怖を超えた恐怖は人格を破壊する。
──おとうさま、 おかあさま。 どうぞお好きなだけ殴ってください。
──おとうさま、 お酒を買ってきます。
──おかあさま、 夕食の準備ができました。
──おとうさま、 ご気分が悪いのでしたら
──おかあさま、 ご機嫌がよろしくないのでしたら
──どうぞ、 ぼくを痛めつけて下さい。

今でも覚えている。
子供が言う「おやすみなさい」の代わりに言っていた言葉を。

──今日も
──生かしてくださり
──ありがとうございます。

 そういって気絶するように眠る日常だった。
 


 父が眠り、 母がどこかへ行っていたとき、 偶然ついていたTVに映し出されたのは、 日曜日にやっていたヒーローの話。 怪人をやっつけ、 みんなが笑顔でいるシーン。
 それを見たとき、 はじめて「笑顔」がこの世にあることを知った。
 それを見たとき、 はじめて「救い」がこの世にあることを知った。
 それを見たとき、 はじめて「痛み」がない世界があると知った。
それを見たとき、 はじめて……