裏のスーパーで買ってきたものを、テーブルの上に並べると、じいちゃんはふんふんと頷き、じゃがいもの袋をぼくに渡した。

「ユウ、じゃがいも、皮むいたことあるか」

「家庭科でちょっとだけ…皮むき器使ってだよ」

「充分だ。じいちゃんとお前だけだから、三個でいいな」

パチンコの軸みたいなのに刃がついた皮むき器を渡され、ぼくはおっかなびっくり芋の皮をむく。

「なかなかうまいじゃないか」

ぼくの手つきを誉めながら、じいちゃんは人参の皮をむき、器用に一口大に切った。
それが終わると、玉ねぎを薄く切る。

ぼくはやっと皮を剥き終わった芋を切るが、形がいびつで少しカッコ悪い。

じいちゃんは笑って、「よしよし。はじめてにしてはいい出来だ」って、ボールにそれをごろごろ入れた。

それから、大きな鍋に油をひいて火をつけると、さっき切った玉ねぎをドサッと入れて、ぼくに木べらを渡した。鍋の中では、油がぱちぱち音をたててはね、玉ねぎを薄く濡らしている。


「玉ねぎはよーく炒めるんだ…あんまり強火でやると焦げるからな」

その間にじいちゃんは、玉ねぎをもうひとつ、今度はみじん切りにして、隣のコンロにフライパンを用意した。

「カレーを煮てる間にハンバーグを作るからな」

みじん切りの玉ねぎを炒めると、ボールにとって冷ます。これが冷めたら挽き肉と混ぜるんだって。

その間にぼくの炒める玉ねぎが、こんがりしっとり飴色になった頃、じいちゃんはやっと豚肉を鍋に入れる。
肉の色が変わったらじゃがいもと人参。よーく炒めて、水をいれる。
コンソメ、いい香りの葉っぱを入れたら、鍋がグツグツいうまで待つ。そしたら火を弱めて、そのままゆっくり煮込むんだって。

「その間に、ハンバーグ用の玉ねぎが冷めただろう…そこに挽き肉、卵にパン粉、塩コショウ、仕上げにごま油を一たらし。 隠し味にすこーし砂糖」

言われた通りに、ボールに材料を入れて、両手でたねを捏ねる。
力一杯肉のたねを押したり捏ねたりしているぼくを、じいちゃんは面白そうに見て、時々小さく頷いた。

肉を捏ねたら、両手でキャッチボールするみたいにして、空気を抜く。真ん中におへそを作ったら、いよいよフライパンに油をひいて、ハンバーグを焼く!

香ばしく肉の焦げる匂い。玉ねぎの香りを思いきり吸い込むと、お腹がぐるぐる鳴った。

「ああ、いい匂い」

「いい匂いだなあ。じいちゃんも腹がへったなあ」

じいちゃんはフライパンをぼくに任せ、カレーの鍋をのぞくと、野菜がとけだしたスープからコンソメの香りがぷうんと広がる。
ぼくが目を輝かせると、じいちゃんはちょっぴり得意そうに

「カレーのルーは、色々な種類を入れるのがじいちゃん流だ…」

と言いながら、何種類かのルーを割り入れて、お玉で軽くかき混ぜた。それから、冷蔵庫からソースとバターを取り出すと、子供みたいににやっと笑った。

「これが、じいちゃんカレーの隠し味だ」

スプーン一杯のソースと一欠片のバターがカレーの鍋にゆっくり沈んでいく。かき混ぜると、とろりとお玉からこぼれ落ちるカレーのうまそうな匂いに、ぼくは思わずフライパンの上のハンバーグを忘れそうになり、じいちゃんの「焦がすなよ」の一声で、あわててハンバーグをひっくり返した。

「よーし。そろそろいいだろう」

じいちゃんは炊きたてご飯をカレー皿に盛り付け、よーく煮込んだカレーを丁寧に流し込んだ。
その横に、ぼくが焼いたハンバーグをそっと添えると、じいちゃんとぼくは顔を見合わせて笑った。

「完成だね!」

「おう。じいちゃん特製、ハンバーグカレーだ」

あつあつの出来立てを、ぼくは思いきり頬張った。

「うまい!」

思わず言葉が飛び出す。
じいちゃんはにやっと笑って

「そうか。うまいか。それじゃよかったなあ」

って言って、自分も一口頬張った。

「うん。うまい!」

野菜がとけだして、甘く香ばしいカレーと、ガツンと食べごたえのある素朴なハンバーグの組み合わせは、言うまでもなく最高で、ぼくは三杯もおかわりしてしまった。

鍋のカレーは二人分だから、あっという間に無くなって、ぼくは最後の一口を大事に飲み込んだ。

「ああーうまかった!」

ほどよくふくれたお腹をさすると、じいちゃんは、
「腹を壊すなよ」
と呆れながらも嬉しそうに笑った。