『……姉さん!待って!』

ここは何処……?暗い闇の中……私はどうして、こんな所に…?
シエラの視界に広がるのは、永遠に続く暗黒…目の前には、自分を置いて行こうとする姉の姿。

シエラは必死に姉の姿を追い掛けるが距離は全く縮まらない。
その時………姉が立ち止まって、振り返る。

『シエラ………』

『姉さん……!』

姉の顔はよく見えず…近付こうと一歩踏み出した瞬間、あたりは暗黒から光に包まれた。


目を覚ましたのか、閉じられていた目をゆっくり開いていく。
開いた目に映ったのは、見知らぬ部屋……部屋の中はシンプルだ。

「ここは………?」

シエラはゆっくり体を起こし辺りを見回していると、話し声が聞こえてシエラの前に女性が姿を現す。

「気が付きました?ここは、私の家です、あなた森の中で倒れていたみたいなんです。私の家まで男性が運ばれてきたんですよ」

女性は優しい声で話すとシエラに、近付きベットの側に置いてある椅子に腰をかけた。

「そうだわ……、私……森の中で急に意識を手放して……」

シエラはエルフの集落から旅に出て、人間の住まう場所へと渡ってきた。
そして森の中を渡り町に向かっている途中、急に意識を手放したのだ。

シエラはベットから降り立ち上って、ペコリと頭を下げお辞儀をし、お礼の言葉を述べる。

「ありがとう、迷惑をかけてしまってごめんなさい。それから――――」



その後に女性から聞いた話しでは、あの森は魔の森と呼ばれているらしい。
魔の森には魔獣が封印されており、その魔獣が人々に夢やまやかしを見せ意識を奪い、近づけけさせまいとしていると噂されている。

その噂に関しては本当かどうかは、不明であるが…………。
魔の森から私を助けてくれたのって、いったい誰なのかしら………?
自分を助けてくれたと聞いた、男性の事を考えていた。

聞いた話しでは、銀髪で白の長いマフラーをしていて、瞳の色は蒼だったということ。
もう一度…魔の森に行ってみよう、なんだか……その人がまだ、あの森に居るような気がする…。


シエラはもう一度、魔の森に行く決心をすれば町を後にして、魔の森へと向かうのだった。
そして―――

シエラは再び魔の森に足を踏みいれていた。
また意識を手放す危険はあるが、何故かそこに彼がいるような気がして、じっとしていられなかったのだ。

薄い霧があたりを覆って不気味な雰囲気を漂わせている。
シエラは魔物を倒しながら奥へと進んでいく。

「あの時は、こんな霧なかったわ…魔物もいなかった………」

急に意識を手放した際には霧に覆われてはおらずに、魔物の姿もなかった。
まるで侵入者を拒んでいるかのようである。
本当に魔獣はいるのだろうか……?この霧も魔物も魔獣のせい……?

『シエラ……』

その時……懐かしい声が聞こえた気がして、辺りを見回すと霧の中から姿を現したのは姉のエリス。

『シエラ……』

エリスは名前を呼ぶと、にっこりと笑って手を差し出す。

「姉さん……私………」

シエラはエリスの差し出した手を握ろうとしたが、届かずに前へと進んで距離を縮めようとする。

前へ奥へと進んでいくうちに、霧も濃くなっていく。
霧が濃くなるにつれて、エリスの姿も見えなくなる。

『シエラ、こっちへいっらしゃっい。さあ………』

目の前のエリスの言葉どおり、シエラは一歩また一歩と、前に進んでいく。

『さあ、早く…………早くいっらしゃっい…』

やっとエリスは止まって、シエラが足を一歩前に踏み出そうとした瞬間、エリスの体が縦半分に裂かれた。

「姉………さん…!」

縦半分に裂かれると、エリスは魔物へと姿を変えてシエラの足元に倒れる。
暫く足元に倒れた魔物を見ていたが、顔を上げれば少し離れた場所に立っていたのは、大剣を持った銀髪の少年だった。

「あ……えっと………」

「またお前か、今度は魔物の幻覚に騙されて喰われそうになるとは」

シエラが声を掛けようとすると、少年は無表情で呆れたような声色で話す。

…え…?魔物…?じゃあもしかして、私が見てた姉さんって……。
そう、シエラが今まで見ていた姉のエリスは、魔物による幻覚だったのだ。

シエラは暫く落胆していたが、首を横に小さく振ってから頬を叩くと、銀髪の少年に訪ねる。

「じゃあ……この森に封印されてる魔獣って……」

「こいつは封印されてると言われていた、魔獣じゃない。俺はもう行くぞ、お前に付き合っている暇はない」

少年がシエラの質問に答えてから立ち去ろうとするので、シエラは慌てて少年の服を掴んだ。

自分でもどうしてか分からなかった、お礼を言いたいからなのか……または別の気持ちによるもなのか……。

「なんだ?」

「助けてくれてありがとう!」

少年の冷たい声に、シエラは笑顔でお礼の言葉を述べる。
霧はいつの間にか消えていて、魔の森と呼ばれていた森は美しい姿を見せていた。


運命の歯車は少しずつ狂い、時は動き始めたのだった―。