駅に着くと新幹線の切符を買った。

実家に帰ろうと思っていた。

最終の時間までbranいることにした。

夜はバーだが昼間はカフェとして営業している。

「マスター」

「今日、実家に帰ることにしたんです」

「そうなんですか。」

私は紅茶を頼むとカウンターに座った。

カウンターの端っこに見慣れないものが置いてあった。

「それは昨日、お客さんが置いて行ったんです。」

「今日は七夕ですからね。」

七夕。

織姫と彦星が年に一度だけ会える日。

年に一度しか会えない恋人と私はどちらが悲しいんだろう。

「願い事をしてみませんか?」

「いいです。」

「きっと叶わないから。」

「今日は晴れそうです。」

「あなたも彦星にきっと会えますよ。」

紅茶を飲み干したころ、少しずつ店内に人が入ってきた。

昼間は女の子が多い。

カラン。おじさんが入ってきた。

「莢。」

声の主は綾人だった。

「一緒に帰ろう。」

「帰れないよ。」

「約束、破っちゃったんだもん。」

「檸檬パイになったから約束は無効だよ。」

意味、解ってくれたんだ。

ひとつめの檸檬は私。

ふたつめの檸檬は綾人。

みっつめの檸檬はお互いの好きだった人。

檸檬パイに閉じ込めて祈った。

この想いが通じますようにと。

「綾人、大好き。」

周囲の目も気にせず私は綾人にキスした。

「俺も莢が好きだよ。」

今の私は天空の恋人と同じくらい幸せだ。

「今日が七夕だって知ってた?」

「いや、忘れてた。」

「願い事は?」

「もういいよ。」

「莢がこれから一緒にいてくれるなら、それでいい。」

新しい、約束をしよう。

指切りげんまん。

「ずっとずっと一緒にいて、あなたの隣で笑っているよ」



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