バイトなんて嘘だった。

近くの公園のベンチに座っていると、そこに久しぶりに見る月弥が現れた。

「莢。」

「帰ってこない間、淋しかった。」

「つきや。」

抱きしめられてキスされた時、私は気付いた。

自分の心がもう月弥にないことに。

「一緒に帰ろう。」

「・・・ごめん、一緒には帰れない。」

「私、もう月弥の所には帰らない。」

私は走り出した。

綾人の顔が今、見たかった。

「早いバイト帰り、だな。」

「何か、あったんだろう。」

「彼氏と会ったのか?」

「うん・・・私、帰ることにした。」

「そうか。」

綾人は黙ってしまった。

「・・・楽しかったよ。」

「私も、楽しかった。」

「明日、荷物片づけて出ていくから。」

「解った。」

「鍵はポストに入れておくね。」

翌朝、仕事が溜まっていると言って綾人は早めに出社した。

私は買い物に行き夜に印刷しておいたレシピを見つめた。

最初で最後のプレゼント。

約束だから、もうここにはいられない。

でも、気持ちを伝えたかった。

三つの檸檬は檸檬パイにしてしまった。

「綾人・・・好きだよ。」

私は荷物を持って駅に向かった。