「……さっきから思ってたけど、ここにいくらがついてる」
言いながら、彼は自分の唇の端を指でさして見せた。
ずっとそんな間抜けな状態でいたのかと、私は恥ずかしさをさらに募らせる。
しかし、自分の唇の端へと手を伸ばした瞬間、遼にその手を掴み取られてしまった。
軽く引き寄せられ、と同時に唇の端に柔らかなものが掠めた。
一気に近づき、すぐに遠のいていった遼の顔。
変な角度からの不意打ちの……キス。
唇の端を指先で押さえれば、とある事実に気が付き、私はもう一度遼をじろりと見た。
「私、今日。いくら食べてない」
「知ってる」
さらりと言葉を返されてしまった。からかわれただけだと分かり、私は「遼!」と膨れっ面で抗議する。
「ねーねー。私もいるんですけど! 彼氏いない身としてすごく切なくなるので、少し自重してもらえませんか?」
花澄さんが私の方へと身を乗り出して、遼をじろりと睨んだ。遼はそれに呆れ顔で反論する。
「お前、食べ終われば用はないだろ。もう帰って良いぞ」
「そんなこと言って! 私、まだまだ居座るからね!」
兄の態度に口を尖らせた花澄さんの真後ろで、突然、はあっと嘆かわしげなため息が響いた。



