「おい、麻莉。我がまま言うなよ。俺たちの結婚は俺たちだけが幸せになるためにするものじゃないんだぜ? 分かってんだろ?」
「そんなこと言われても」
私にはこの結婚話の裏側にどんな話が潜んでいるのか分からない。
けれど話が決まれば、今まで以上に西沖グループと榊商会の二社の結びつきが強くなるだろうことは分かる。
互いの利益にも繋がっていくのならば、その結婚は社や従業員にとって喜ばしいことだ。
けれど、これは私の結婚でもある。
彼のことを好きにはなれない。
すでに嫌悪感を抱いてしまっているこの状態で先へと進んでしまったら、幸せな未来など確実に得られない。
一緒にいると自然と笑顔になれる。私はそんな男性と、温かな家庭を築きたい。
時には喧嘩をしてしまうことがあっても、そのたび、彼は自分にとって大切な人だと気付かされるような、そんな人と結婚したい。
大切な人。
とくりと、鼓動が高鳴った。
思い浮かべてしまったのは倉渕君だった。
「私は彼のことが好きなんです。彼じゃないとダメなんです。ごめんなさい」
倉渕君に……遼に会いたい。
自分でも驚くほど強くそう思った。涙まで込み上げてくる。
「どんな男と付き合ってるのか知らねぇけど、冷静になってよく考えてみろよ。この俺とソイツ、どっちが得かを。贅沢させてやるから、俺のとこに来い。ちゃんと幸せにしてやるから。な?」



