喜多さんに呼びかけてから、母は私へと視線を戻し、白々しく笑いかけてきた。
どうやったら、喜多さんに迷惑をかけずに、この場を乗り切ることが出来るのだろうか。
母からの圧力に唇を噛んだ瞬間、「麻莉お嬢様!」と喜多さんが私を呼んだ。
「私はすでに覚悟を決めております。ですから、私のことなど気にせず、お嬢様の望むようにして下さい」
真剣な眼差しを私に向けながら、力強くそう言った。
「……喜多さん」
「私はこれ以上、あなたの枷にはなりません」
言葉通り、喜多さんの覚悟が伝わってくる。
感謝の気持ちで胸を震わせながら、私は頷き返した。
改めて、榊さんと向き合った。
「榊さん。私には、大切な人がいます」
言葉にすれば、自然と倉渕君の顔が頭に浮かんできた。
ほんのりと胸が温かくなるのを感じながら、私は言葉を続ける。
「お付き合いしている人がいるんです。いずれは、彼と結婚したいと思っています。だから、あなたと結婚できません」
はっきりそう告げると、榊さんが息をのんだ。
しかしすぐに表情を崩し、肩を揺らし笑い始める。



