そして代わりのように、再び秘書の男性の胸倉を掴み上げた。
「見逃してやると言っただろ! 失せろ!」
怒鳴りつけた後、男性の身体を後ろへと突き飛ばす。
足元をぐらつかせた後、秘書の男性は尻餅をついてしまった。
しかも、手に持っていたカップの中にはまだコーヒーが残っていたようで、それが彼の手元にかかってしまっている。
「大丈夫……きゃっ!」
秘書の男性へと歩み寄ろうとしたけれど、それよりも早く榊さんに腕を掴み取られてしまった。
そして先ほどと同じように、私をひっぱり歩き出す。
「離して下さい!」
父も母も妹も、秘書の男性を気にかける様子はない。みんな足早にこの場を立ち去ろうとしている。
しかし、喜多さんだけは違っていた。
心配そうに秘書の男性に話しかけ、手を差し伸べている。
「榊さん! 手を離して!」
強く言い放ち、やっと、彼の歩みを止めることが出来た。
肩越しに振り返った彼と目が合い、ぞくりと背筋が寒くなる。
ほんの一瞬だったけれど、凶暴さを感じるような瞳で私を睨みつけてきたからだ。
怖い。そう思ったけれど、それに屈したくないという気持ちも強くなっていく。



