秘書の男性は、私に興味を持ったような顔をして、ナンパのような文言をさらりと口にしてきた。
言いながらわざとらしい微笑みを向けられれば、それらがあくまで振りであることが、しっかりと伝わってくる。
彼は私が倉渕君の友人の西沖麻莉だと知ったうえで、そんなことを言ってきているということだ。
今まで彼とは言葉を交わしたことがなかった。
倉渕君の後ろで不機嫌な顔をしている人という認識しか持っていなかったため、その人となりがわからない。
何を考えているのかが掴めなくて、目を大きくさせ見つめ返していると、私の視界を遮るように、榊さんが割って入ってきた。
「何を寝ぼけたこと言ってるんだ。麻莉さん、こんなやつ放っておいて、行きましょう」
言い終わるよりも前に、榊さんが私の手を力強く掴み取り、強引に歩き出した。
「手が痛いです。離して下さい!」
痛みだけでない。榊さんに触れられたことや、湿り気を帯びた手の感触に、寒気を感じてしまう。
抱いた嫌悪感そのままに、私も乱暴に彼の手を振り払おうとするけど、ダメだった。逆に榊さんの手の力が強さを増していく。
「待ってください。話はまだ終わっていません」
足早に追いかけてきた秘書の男性が横に並んだ瞬間、榊さんが私の手を離した。



