「おや? 見せていただけないのですか? やっぱりおかしいですね。ふざけたことを言ってるのは、どちらでしょう」
男性はそう言って、口元に薄く笑みを浮かべた。
それは困っているようにも、見下しているようにも見える笑い方だった。
榊さんもそう感じたのだろう。頬を赤くさせ、男性の胸元を掴みにかかった。
「てめぇ。よくそんなことが……」
「榊君! もうそのくらいにしておきなさい」
今度は父がたしなめるように彼の名を呼び、制止を促した。
怒りをうまく処理しきれないかのように、榊さんは男性を睨みつけつつ、胸元を掴み上げていた手を荒々しく離した。
「もういい。見逃してやるから、今すぐ俺の前から消えろ」
捨て台詞のような言葉を投げつけられても、男性に引き下がる気はないようだった。
乱れた襟元を正したあと、不機嫌な顔で榊さんを睨み続けた。
「……あっ……あなた!」
不機嫌な顔を見て数秒後、驚きで声をあげてしまった。
私は彼を知っている。
叫んでしまったから、すぐにみんなの視線が集まってくる。
けれど、誰とも目を合わせたくなくて、私は慌てて視線を自分の足元へと落とした。



