私は両手で顔を覆ってから、彼の腕の中からの脱出を試みる。

大急ぎで脱ぎ捨てた服を拾い上げ、身に着ける。


「……麻莉?」


服を着終わって、ほっと息をついたその時、彼が再び私の名を呼んだ。

寝言であって欲しい。そう願いを込めながらベッドを振り返り見て、小さく悲鳴を上げる。

倉渕君はベッドの上で身を起こし、気だるげに前髪をかきあげながら眠そうな顔で私を見ている。


「……どうした?」

「昨日一日のことは、全てなかったことにしよう」

「は?」


私の言葉で、彼の目が大きく見開かれた。眠気なんて一瞬で吹き飛んでしまったかのように。


「隅田君経由で、ちゃんとお金は払います。だからお願い。全部忘れてください! 倉渕君、ごめんなさい! さようなら!」

「麻莉! 待てって!」


ベッドから降りようとする彼を見て、私は勢いよく走りだす。そのまま部屋から飛びだした。

足をもつれさせながら廊下を走り、エレベーターへとたどり着き、呼び出しボタンを連打する。

やっとエレベーターが到着し急ぎ足で乗りこめば、パタリと扉が閉じる音が聞こえた。


「麻莉っ!」


倉渕君だ。