予期せぬ提案に、頭が追いついていかない。漆黒の瞳をじっと見つめ返してしまう。


「そう。俺以外の男と結婚なんて、冗談じゃないって」


遠くで車のドアが閉じた音がした。

続けてエンジン音も響き、こちらへと車が向かってくるのがわかった。

けど、私は彼から瞳を逸らすことができなかった。

近づいてきた彼を受け入れるように瞳を閉じれば、互いの唇が柔らかく重なり合った。

繰り返し口づけを交わす私たちをその場に残して、車は走り去っていく。

彼とのキスに夢中になっていた。

優しいだけじゃない。徐々に激しさを増していくキスに、私はのめりこんでいく。

戸惑うばかりで翻弄されているというのになぜか心地よくて、時折零れ落ちる甘い吐息から、自分だけでなく彼も気持ちよく感じていることを知ってしまえば、身体が熱くなっていく。

目と目を合わせれば、彼が微かに目を細めた。

私を愛しく思っていると錯覚させるような熱い眼差し。

色香を帯びた彼の表情に、心が甘く疼いた。


「麻莉」


初めて、彼に名前を呼ばれた。

耳元で囁きかけられた甘い声と自分の耳を掠めた彼の唇がくすぐったくて身を捩れば、彼が私の腰を引き寄せ、首筋にも唇を這わせてきた。