「奢ってやるって言ってんだ。恥かかせるな」
「はい。ありがとうございます。すみません。よろしくお願いします。感謝します。さすが倉渕君。さすが男前」
そこまで言ってやっと、彼の手が私の頬から離れていった。
「なぁ。こいつ、実家で何かあったの?」
私に聞いても、らちがあかないと思ったのだろう。ちょうどビールとウーロン茶を持ってきた亜由子に、倉渕君が問いかけた。
「詳しいことは、私たちもまだ聞いてないわよ。けどね、家政婦さんが麻莉のこと探しに来てたから、何か実家でやらかしたことのは確実ね」
亜由子はそれだけ答えてから、「いらっしゃいませー!」と店に入ってきたお客の元に飛んでいく。
「探しに来た? 喧嘩でもして、壺とか壊しまくってから飛びだしてきたのか?」
きちんと靴を履いてから、自分の前に置かれたウーロン茶のグラスを両手で包み込んだ。
「何も壊してないよ。ただ逃げだしてきただけ」
苦笑いしてみたけど、彼は無表情のままだった。綺麗な瞳で「何があった?」と問いかけてくる。
「ちょっとちょうだい!」
「わっ。ちょっと待て!」



